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FEB/2018

“奪われない幸せ”は必ず「自立」の先にある――映画監督・荻上直子さん「言いたいことが言える人生にしましょうよ」

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「#MeToo」世界中で、女性たちが声を上げ始めた。大きなムーブメントとなったこの動きは、日本の女性にはどんな影響を与えただろうか――。

性被害の問題に限らず、社会、会社、家庭の中で、「私が我慢すれば」と声を上げずにいる日本の女性はきっと少なくない。だが、自分が抱える痛みに蓋をして生きるには、人生100年時代はあまりに長い。

自身の脚本・監督による映画作品を通じ、多様な価値観、個性が尊重される社会の重要性を訴えかけてきた荻上直子さんは、日本の女性に「覚悟を決めて」という言葉を投げ掛けた。その言葉が意味するものとは。

「あの人は何者……?」
男性と暮らし出しただけで周囲の無言の圧がなくなった

荻上直子
映画監督・脚本家
荻上直子さん 

20代でアメリカ留学し、映画を学ぶ。自ら脚本も手がけ、03年に『バーバー吉野』で長編映画劇場デビュー。その後、『かもめ食堂』(06)のヒットで名を馳せるとともに、日本映画の新しいジャンルを確立する。最新作、『彼らが本気で編むときは、』(16)は第67回ベルリン国際映画祭で日本初のテディ審査員特別賞、観客賞第2位とダブル受賞に輝き、国内外で高い評価を受ける。2017年1月NHKBSで放送された「朗読屋」のドラマ脚本を手掛けるなど、CM、TVドラマ脚本など幅広く活躍を続ける。化粧品会社のエイボン・プロダクツ株式会社が主催する『エイボン女性年度賞 2017』芸術賞受賞

まず、私が日本社会全体に感じているのは、閉塞感。一人一人が自分らしさを主張し、自由に生き、声をあげることが難しい世の中に、憤りを感じます。

こうした思いを強くするようになった背景にあるのは、20代の頃の留学経験。南カリフォルニア大学大学院で映画製作を学びました。アメリカでは、誰が何をしていようととやかく言われることはなく、全て自己責任。私自身もそんな環境の中で、のびのびと自由に生きることができていたように思います。

しかし、6年の留学期間を経て帰国すると、日本社会の目はとても冷たかった。

昼間、実家にいるだけで、「なぜ定職にも就かず、結婚もせず、フラフラと生きているのか」という無言の圧を送ってくる人がいる。とても不思議だったのは、私が男性と一緒に暮らし始めると、それがぴたっと止んだこと。なんだかなぁと悲しい気持ちになりました。

他にも、アメリカにいたころは、LGBT(セクシャルマイノリティー)をカミングアウトしている友人がたくさんいたのに、日本には全くといっていいほどいない。“いない”はずはないのに、全く見えてこないんです。

「誰かに何かを言われるかもしれないから、声をあげられない」「個性を主張すると批判されてしまう」そんな空気が漂っています。少しでも異端に見えると排除されそうになるのですから、女性に限らず、誰にとっても生きづらい世の中だと感じました。

経済的、精神的な自立は幸せに生きるための大前提

日本には、我慢は美徳という考え方もありますね。でも、いずれは限界に達するものです。最近、「熟年離婚」という言葉が話題になりましたが、これは私たちの母親世代が我慢をし続けた結果かもしれない。言いたいことを我慢して、我慢して、ついに大爆発。熟年離婚には大変なリスクがともないます。

そうはいっても「言いたいことなんて、言えないよ」と女性自身が思っているとしたら、厳しいようですが、そこには少し甘えがあるかもしれない。言いたいことが言える人生は、自分でつくるものです。

私が自分の映画を通じて、一貫して発信し続けてきたメッセージはこれ。「誰かに頼らず、自分一人で生きていけるだけの確固たる芯を持って」ということです。

昨今、「専業主婦になったら勝ち組」と考える女性が増えていると聞きます。私はよく昼間のファミリーレストランで脚本を練っているのですが、そこで子連れの女性たちが何時間も他愛もないおしゃべりに興じる姿を見ているとふと思います。「この女性たちは、夫が働けなくなったときや、子供が手を離れてしまったとき、どうなってしまうんだろう……」と。

余計なお世話かもしれませんが、「稼ぐ夫の妻」「子供の母」であることだけがアイデンティティーである場合、他者の状況次第では、心にぽっかりと穴があいてしまう可能性がある。自分以外の人の人生はどう頑張ってもコントロールできないものだから、それに頼りきってしまうのは非常にリスキーなことです。

一方、世界の幸福度ランキングで上位を占める北欧諸国では、女性も90%以上という高い割合で働いています。「仕事」や「キャリア」は自分でコントロールできますし、経済的、精神的な自立をもたらしてくれます。夫に「離婚しましょう」と堂々と伝えることだってできる。自立ができると“生きたい人生”を自分の力で選べるようになるし、言いたいことも、言えるようになります。

年収1000万円の旦那がいて、高価なランチを食べることができたとしても、それは相対的な幸福でしかありません。世の中の価値観が全て崩れ去ったとしても、幸せに生きていける女性というのは、自分の足で立って生きている人です。

「これが幸せというやつか!」40歳で大きく変わった人生観

荻上直子
化粧品会社のエイボン・プロダクツが主催する信念と情熱を持って行動し、ひたむきな美しさで可能性を拡げた現代の女性を表彰する「エイボン女性年度賞 2017」授賞式にて、芸術賞を受賞した荻上監督。
幸せの価値観は人それぞれ違います。だからこそ、一人一人が自分にとっての幸せを追求すべき。でも、上述したとおり、日本の社会ではマイノリティーが生きづらいから思い切った行動を取りにくいですね。

最新作の『彼らが本気で編むときは、』では、LGBTをテーマとして扱いました。驚いたのは、映画が公開される前の時点で、インターネットの映画評に300人以上もが星一つの最低評価をつけていたこと。「まだ観てもいないのになんで……!?」酷いコメントをする人もいて、何とも言えない気持ちになったのを覚えています。とにかく理解できない存在を排除したいという気持ちが先行してしまうのでしょう。一方、台湾では賛否両論ありながらも、異なる意見を持った人たちが互いにきちんと議論し、考え方を共有し合っていたのが印象的でした。

正直、私自身、「こうすれば日本社会はもっと良くなる」とか、そういった考えは持ち合わせていません。社会全体の価値観がいっぺんに変わることなど、そう簡単にできることではないからです。でも、だからこそ、「こうしたら幸せになれる」という図式はもう持つべきでないとも思う。一人一人が自分なりの答えを探していくしかないのだと思います。

私自身の幸せについての話をしますと、40歳の時に大きな価値観の変化がありました。

私はそれまで仕事人間で、映画をつくることは麻薬のようにやめられない、やらずにはいられないことだったのです。世間にどう言われようと、誰にどう思われようと、「100%自分のエゴを通す」ことに必死になったりして。やってもやっても理想にたどり着けない自分に絶望したりした時期もありました。「ものすごい映画がつくれるなら、ささやかな幸せなどいらない!」と大真面目に豪語していた時期もあるくらい(笑)。

でも、40歳で双子を出産したとき、「こ、これが幸せというやつか」と初めて感じたんです。人って経験一つでここまで考え方が変わるものなんですね。出産の経験は、その後の映画づくりにも大きな影響を与えるようになりました。

この先の人生、確かなものなど何一つない。自分の人生観が大きく変わることだってある。でも、20~30代の人たちにちょっと先輩の立場からアドバイスするとしたら、やっぱり「自立して生きる」覚悟はもってほしいということ。自分の足で立つ経験をしなければ、絶対“自分らしい幸せのかたち”は見えてこないから。誰にも奪うことができない、自分の「芯」を見つけていってください。

取材・文/上野真理子 栗原千明(編集部)

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