vol. 421

2017.12.06

池袋で過ごす濃密な夜――小劇場演劇の頂点に触れる今週の1本【連載:ふらり~女の夕べ】

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NO残業デーは劇場で“非日常”な体験を。
ふらり~女の夕べ

プレミアムフライデーに、NO残業デー。働き方改革が進み、プライベートタイムは増えたけど、一体その時間に何をする……? 会社を追われ、行き場をなくし街を彷徨うふらり~女たちへ、演劇コンシェルジュ横川良明がいま旬の演目をご紹介します。奥深き、演劇の世界に一歩足を踏み入れてみませんか?

横川良明
演劇ライター・演劇コンシェルジュ 横川良明
1983年生まれ。関西大学社会学部卒業。ダメ営業マンを経て、2011年、フリーライターに転身。取材対象は上場企業の会長からごく普通の会社員、小劇場の俳優にYouTuberまで多種多彩。年間観劇数はおよそ120本。『ゲキオシ!』編集長


ふらり~女のみなさーん、今夜も劇場に行ってますか~?

ここ数回にわたって、選りすぐりの劇団を紹介してきましたが、そもそも演劇に馴染みのない方にとって「劇団」と聞くだけで何だか敷居が高い感じがするかもしれません。

詳しい人でなければ名前も知らないし、作風も知らない。星の数ほど劇団はあれど、一体どこが本当に面白いのか分からない、というのが本音。観たことのない劇団に足を運ぶのは、やっぱり相当の勇気がいりますよね。

だからこそ、ぜひ手掛りにしてほしいのは同じ観客の声。目の肥えた劇評家の意見ももちろん素晴らしいですが、自分たちと近い感覚を持った観客が「面白い」と推す劇団ほど、まだ演劇をよく知らない方に触れてほしいなと思っています。

そこで今回ご紹介するのが、劇団チョコレートケーキの『熱狂』/『あの記憶の記録』です。

劇団チョコレートケーキ『熱狂』/『あの記憶の記録』

熱狂
その可愛らしい名前とは裏腹に、男臭い硬質なエンターテイメントを提供する劇団チョコレートケーキ。彼らは、その年最も優れた演劇作品を観客投票によって決定する『CoRich舞台芸術アワード!』で過去3度グランプリを獲得した、まさに小劇場ファンが最も愛する劇団の一つ。今回の『熱狂』/『あの記憶の記録』の2本立ても、2012年の同賞で第1位を獲得した、その年のベストオブベストです。それが今回、計3度目の上演。小劇場演劇の頂点に立った作品を、あなたのその目でお確かめあれ!

Point1:若きヒトラーと、生き残りのユダヤ人。ふたりの主人公、ふたつの時代を通して描く第2次世界大戦

『熱狂』/『あの記憶の記録』は長編2本立て。『熱狂』は、かのアドルフ・ヒトラーを主人公に、世紀の独裁者と呼ばれた男が国家の頂点に上りつめるまでを描いた作品です。一方、『あの記憶の記録』は、1970年のイスラエルが舞台。ナチスによるユダヤ人大量虐殺が行われたアウシュビッツ強制収容所から奇跡の生還を果たした男が主人公です。時代は違えど、この2本が語るのは、第2次世界大戦を軸にした人間の欲望と大衆心理の恐怖、そして戦争により負った消えない傷の物語。

熱狂
正直に言って、ナチスやユダヤと聞いただけで、難しそうとアレルギー反応を起こしてしまう人も多いのでは。ですが、単に難解なだけの作品が、観客投票で年間1位に選ばれるなんて考えられませんよね。決して歴史に詳しくない人でも、きちんと物語の世界に入っていけて、気づいたら心を鷲掴みにされている。そんな繊細さと力強さを持ち合わせた圧倒的なエンターテイメントこそが、劇団チョコレートケーキの持ち味。

いわゆる日常の機微を描いた軽やかな後味の作品というわけではないかもしれません。けれど逆に言えば、観終わった直後の脱力感は濃厚濃密。気持ちとしては、アカデミー賞にノミネートした大作ヒューマン映画を観に行くような感覚で、非日常の世界に飛び込みに来てください。

Point2:これは、ただの過去の悲劇じゃない。現代を生きるすべての人に問う、戦争と平和

歴史は苦手という人でも、アドルフ・ヒトラーという男が、かの第2次世界大戦でどんなことをしたかは何となく知っていると思います。反ユダヤ主義を掲げることで国民を煽り、何百万ものユダヤ人の命を奪った張本人。決して繰り返してはならない歴史の惨劇として、ユダヤ人虐殺は語り継がれています。けれど、本当にこれはただの過去の過ちでしょうか。今のこの世の中を見渡したとき、本当に同じことは繰り返されていないと言えるでしょうか。2017年の現代日本で、この『熱狂』という作品は、私たちへの警鐘として鳴り響きます。

熱狂
また、『あの記憶の記録』は、強制収容所から何とか生き延びた男が、家族を持ち、父となり、平和に暮らしている光景から始まります。心の奥底に封印した戦争の記憶。しかし、愛する息子が国のために入隊志願すると言う。断ち切ることのできない憎しみの連鎖。愛国心とは果たして何か。長く閉ざしていた重い記憶の扉を開け、語られる父から息子への独白。そこに横たわる、戦争を経験した者/していない者の深い断絶は、やはり今の日本の状況を想起せざるを得ません。

できれば目を伏せて知らないふりをしておきたい気持ちもよく分かります。でも、こんな今だからこそ観て、戦争と平和について考えてみては。

Point3:両方観る? どっちから観る? 2本立てならではの楽しみ方

2本立てって、どちらから観ればいいの? あるいはどうしても片方しか観られない場合、どちらを観ればいいの? と悩みますよね。これは、完全な独断と偏見ですが、2本ご覧になる方は時系列に従い『熱狂』→『あの記憶の記録』の順番でご覧になった方が、より分かりやすく楽しめるはず。

熱狂

片方しか観られないという方に両作品の特徴をお伝えするとしたら、『熱狂』は読んで字のごとく白熱と狂気の政治劇。剛速球のような役者の演技に圧倒されること間違いなし。ラストシーンでは、まるで自分もその場にいるような感覚に陥り、熱狂の渦に呑みこまれてしまうことでしょう。

一方、『あの記憶の記録』は『熱狂』に比べると淡々とした味わいですが、それだけに作品全体に流れる緊迫感は格別。交わされる会話の一言一言を、終盤繰り出される父の独白を、聞き漏らすまいと息を呑んで耳を傾ける、文芸性の高いセンシティブな家族劇です。

どちらが好みかは人それぞれ。ぜひ自分の感性を信じて選んでください。終演後には、「やっぱりもう1本も観たい!」となっているかも?

<公演紹介>
■あらすじ

『熱狂』
その男は疲弊した祖国を蘇らせた。
その男は祖国の誇りを回復した。
その男は祖国の民に愛された。
その男は600万人のユダヤ人を殺した。

二十世紀、最も国民を熱狂させた政治家の物語。
——————————————————————-
『ある記憶の記録』
ある時代、ある国のある街にある家族が暮らしていた。
労わりあい、時にぶつかりながら小さく平凡に暮らしていた。
だけど父には秘密がある。
一人の人間が抱えるにはあまりにも黒くて重い『あの記憶』。

その記憶をめぐる、ある家族の物語。

■作

古川健(劇団チョコレートケーキ)

■演出
日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)

■出演

『熱狂』
西尾友樹、浅井伸治(以上、劇団チョコレートケーキ)/青木シシャモ(タテヨコ企画)、大原研二(DULL-COLORED POP/TOHOKU Roots Project)、佐瀬弘幸、中田顕史郎、道井良樹(電動夏子安置システム)、山森信太郎(髭亀鶴)、渡邊りょう(悪い芝居)

『あの記憶の記録』
岡本 篤、浅井伸治(以上、劇団チョコレートケーキ)/川添美和(Voyantroupe/(株)ワーサル)、藤松祥子(青年団)、水石亜飛夢、吉川亜紀子(テアトル・エコー)、吉田久美(演劇集団円)、寺十 吾(tsumazuki no ishi)

■日程
2017年12月7日(木)~19日(火)

■会場
東京芸術劇場 シアターウエスト ※各線「池袋駅」西口より徒歩2分

>>公式サイト

連載『ふらり~女の夕べ』の過去記事一覧はこちら

>> http://woman.type.jp/wt/feature/category/furariijyoをクリック

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