vol. 400

2017.11.13

「家族をつくれば寂しくない」は幻想だ――母になった犬山紙子さんが“女の幸せ”地獄を振り返る

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結婚する、しない。子供を産む、産まない。

女性たちは今、“選ぶことができる苦しさ”に直面している。どういう人生を歩みたいのか。日々、選択を迫られる。

一方で、「女は結婚して、子供を産むことが一番の幸せ」という価値観は健在だ。世間が言う“女の幸せ”にまどわされず、自分の幸せを選びとるのは難しい。

今年第一子を出産したイラストエッセイストの犬山紙子さんも、悩める女性の一人だった。子どもを産むのか、産まないのか。後悔のない選択をするために、たくさんの女性に取材を重ね、著書『私、子ども欲しいかもしれない。』を書いた。

犬山紙子
イラストエッセイスト 犬山紙子さん 1981年生まれ。仙台市の出版社でファッション誌の編集を経験した後、家庭の事情にて退職。6年間、東京でニート生活を送りながら書いたイラスト・エッセイのブログがきっかけとなり、2011年、『負け美女 ルックスが仇あだになる』(マガジンハウス)を出版。現在、TV、ラジオ、雑誌、Webなどで活躍中。最新著『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)が話題
公式ブログ:http://lineblog.me/inuyamakamiko

“自分の幸せ”を見つけ、選ぶためには、どうすべきか。悩みから脱し、“自分の幸せ”に従って子どもを産んだ犬山さんに、その問いを尋ねた。

幸せのカタチは人それぞれ。分かってはいるけど、それでも不安

はっきりと産みたくなかったら「産まない」って決めて、あとは周囲の“産めハラ”にどう対処するかだと思うんですけど、私は「産みたい」気持ち半分、「産みたくない」気持ち半分という状態でした。社会から“幸せな人”って呼ばれる人がいて、そこから外れたらどうなるんだろうっていう恐怖があったんですよね。

老後への不安もベースにあって、子供を産まなかったら「子供や孫に囲まれている、幸せな老後」っていう道から外れるし、ゆくゆく後悔することになるのかなぁって。ただ、子供を産んだからといって老後の不安がなくなるわけではないですよね。親子関係が険悪になったりしたら、むしろ不安が高まることだってあると思う。

「ずっと独身だけど、毎日が楽しくて幸せ」
「結婚したけど子どもは持たない。それでもすごく幸せ」

そういう声が、私たちには全然届いてこない。絶対にたくさんいるはずなんですけど、隠されているというか、ネットやテレビでそういう人たちはほとんど取り上げられていません。

犬山紙子

こんなにいろいろな人間がいて、働き方だってさまざまで、生き方だってたくさんある時代。それなのに勝手に“女の幸せ”っていうくくりで、結婚して、子どもを産むのがいいんだよって私たちは押し付けられている。「ちゃんとした会社に就職して年功序列の中で終身雇用が幸せ」って言われているけど、それも結局は絶対じゃないと気づいているのと、すごく似ている感じがします。

幸せのカタチなんて人それぞれだし……って頭ではよく分かっている。でも、産む・産まないに関しては、タイムリミットがある選択だから焦るんですよね。「もっと医療進化してくれ!」って思いますよ(笑)。

ただ、『私、子ども欲しいかもしれない。』の取材でいろいろな方に話を聞いて、この悩みはずっと解決しないなって思ったんです。一生を左右することだから後回しにして逃げてきたけど、当時私は34歳。年齢のことを考えたら、いよいよ“決め時”が来た。

「絶対に産みたくない」とは思わなかったので、まずはゆるい妊活から始めてみました。もし子どもができなかったとしても、それはそれで「いない生活」もありだよねって思いながら、できたらラッキーぐらいで始めてみようかって。だから妊活を始めてもなお、まだどっちの生き方でもいいっていう気持ちでした。

欲に従うのは悪いことじゃない。欲を探れば“自分の幸せ”は自然と見えてくる

この本を書いた時、「子供ができたら○○ができなくなる」って不安な気持ちをベースに動いていたんですけど、お母さんになっても自分が好きなことを諦める必要はないっていう考え方に切り替えたら、分かりやすく自分の軸が見えるようになりました。

私の場合は、ゲームとか、友達としゃべるとか、読書とか、そういうことがすごく大事で、なんで好きなのかを考えたら、私は自分の知的好奇心をくすぐる刺激が欲しいタイプなんですよ。さらに言うと、「私は常にワクワクできて、新しいものが入ってくるの状態が好きな人間なんだ」ってことがよく分かりました。それを軸に考えたら、子供を産むっていうのは新しい刺激だし、いいかもしれないと思えるようにもなったんです。

犬山紙子

でも自分の好きなことやものって、意外とちゃんと考えないと気づけない。そして、自分の好きな状況を整えるのってあまり良いともされていない。欲に忠実な人たちはバッシングされがちだから、欲に従うのが悪い事みたいに思っちゃう。

「母親は遊んじゃいけない」とか言われるのも同じですよね。母親自身も「子供がいるのに遊んで、私って悪いのかな……」って、必要ないのに悩んじゃう。冷静に考えたら、「普段ちゃんと子供の面倒見てるんだし、ママが楽しくして笑ってたら子供だってハッピーになれる。誰にとっても悪くないじゃん!」っていう答えが出てくるはずです。

「あなたのためにこんなに我慢してきた」とかいって悲しそうな顔をされたら、子供にとっても重いしつらい。自分が楽しくある、幸せな気持ちであるって後回しにされがちだけど、実はすごく大切なことなんですよね。

「強さ」は女にとって大事なスキル。でも、耐えることは強さじゃない

私の友達は「女なら産んだ方がいいよ」みたいなことは全然言わないですけど、やっぱり問題は上の世代ですよね。実家とかも、親の助言は100%善意だからイラっとはしないですけど、「子供はかわいいで~!」みたいな感じでぐいぐいくる(笑)。マスコミもまだそういう内容をテレビでどんどん流しますし。それに対し、ネットはだいぶそうじゃなくなってきたなとは思います。

「女の幸せ」という固定観念は、もう宗教みたいなもの。そういうのを信じてる人の価値観を変えるのはほぼ無理だと思ってます。35歳になった私が、10代の子の間で流行っていたキス動画が理解できないのと一緒(笑)。でも理解できないからってバッシングはしたくないですけど。

だから相手を変えようとするよりは、自分が気持ちを強く持って、「私はこういう考え方でやるからね」、「それを言われると辛い気持ちになるよ」っていうのを伝えていくことにしています。「あなたの考え方は尊重するけど、私はこうだから」って言い続けるしかないと思います。もちろん、職場で「結婚しろ」とか「産め」とか言ってくる場合は、セクハラなのでさっさと人事のところに行くのが良いと思うのですが。

犬山紙子

日本では「我慢は美徳」みたいな考え方が根強いけれど、私、それが全てでは絶対ないと思うんです。耐える方が波風立たなくて楽だけど、「私さえ我慢すれば」っていう感覚は、結果的に不幸を連鎖させる。「このままだとしんどくなる」っていうのを想像して、言葉に出して動いていくのはエネルギーがいるし、大変だし、最初はくじけそうにもなるけど、それがすごく大事な気がします。

例えば上司から「まだ結婚しないのか」って言われたときに、「そういう風に言われるのは嫌です」って言うことで、気持ちが楽になる人たちがいっぱいいる。理不尽に耐えちゃうと、周りの人や下の世代の子たちにも同じ思いをさせてしまうんですよね。

自分の意見があっても、相手に悪いかなって遠慮しちゃう優しい女性が多いと思うんです。叩かれるのも怖いし。でも勇気を出して大事な主張をちゃんと言えると、「私はこう思ってたんだ」って自分に対して力になるし、「私もそう思ってた」って人が集まってくれて、その人たちと交流することで、また力が湧いてくる。

だから、最初はハッタリの強さでもいい。その姿は、きっと同じように悩んでいる人に「かっこいい人」として映るし、そういう子たちと話しをすることで良い循環が生まれるんじゃないかな。

仕事をする上でも、生きていく上でも、“強そうに見せる”って言うのは、大事なスキルかもしれません。気が強そうで意見をズバズバ言うぞ!っていう風に見せると、相手があまり嫌なことを言ってこなくなる。私みたいにキャンキャン噛みつきそうな女には言わないんですよ。こいつにいったらめんどくせーなってなるんで。

“かっけぇ女”とつるむ女子会って最高ですよ

とはいえ、強くい続けることは大変だから、時にはくじけそうになるときもあると思うんです。そんな時こそ、やっぱり仲間が必要です。つらいことを言ってくる人たちと付き合わなきゃいけない時の対処法って、その分良い人たちと付き合って、いい空気をもらうことしかない気がしていて。嫌な奴が1人いたら、良い人を2人見つけるんです。

世間がかけてくるプレッシャーが敵だとしたら、味方をどんどんつくって、“つらさ”を分かり合える仲間同士で話をする。私も取材を通じてパワフルでかっこいい女性達に話を聞けて、「よっしゃ! あんな人に私もなれるかも!」って、すごく力になりました。

犬山紙子

だから、わかりやすい“女子会バッシング”はマジでないなと思っています。「傷を舐め合っている」みたいな勝手なイメージがあって、私も若かりし頃はそんなことを言ったりもしたので反省してるんですけど……(笑)。女子会にもいろいろな女子会があるわけですよ。自分がリスペクトできるかっこいい女友達を探して、そういう人たちと一緒に話しができたら、こんなにいいことはない。尊敬できる“かっけぇ女”とつるむような、そういう女子会は素晴らしいと思うんです。作品で言うと、柚木麻子さんの本に出てくる女の子の親友がめちゃくちゃかっこよくて、すごく勇気づけられるから、おすすめです。

孤独を回避する方法は「結婚する」「子供を産む」だけじゃない

孤独って、すごくこたえるじゃないですか。独身の時に、無人島で友達の結婚式があったんですけど、結婚したい願望は全然強い方じゃなかったのに、「私は一生一人なんだ」とか思って、星空を見ながらわんわん泣いたことがあるんですよ(笑)。

でも、孤独を回避する方法は「結婚する」「子供を産む」だけじゃない。実は友人でも解決できるものだったりする。

子供を産むのは、すごく親密な関係の人が身近に増えるっていう感じ。でも、それは子供じゃないと絶対にダメかっていうとそうでもない気がします。大事にしたいと思える友達とでも、密な関係をつくることはできるはず。

綺麗事に聞こえるかもしれないけど、 私の中で一生大事にしたい、心から尊敬できる友達が何人かいて。そういう人たちがいるだけで、自分の人生は儲けもんと言うか、幸せに生きていけるかなって思うんです。

産む、産まないは、まだ体験していないことを選ばなきゃいけなくて、しかもどちらを選んでも、あとから取り返しがつかないのが難しい。でもどっちを選んでも、自分の欲に忠実であれば楽しいと思う。たとえ隣の芝が青く見えても、「楽しい」とか「好き」っていうのに忠実に生きていけば、「あれをやっても自分は幸せじゃないよな」っていうことが見えてくる。「女はこうあるべき」っていう社会の圧は本当にひどいけれど、頼もしい友達がいれば、笑い飛ばしてサバイヴする力が湧いてくると私は思います。

犬山紙子

取材・文/天野夏海 撮影/赤松洋太

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