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APR/2016

「過去の自分に縛られたくない」俳優・渡辺謙が語る、“成功を捨てる”勇気を持つことの大切さ

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一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。

渡辺謙
渡辺 謙(わたなべ・けん)
1959年10月21日生まれ。87年、大河ドラマ『独眼竜政宗』に主演。大河ドラマ史上最高の平均視聴率を獲得し、スターダムに。2度に渡る闘病生活を経て、03年、初のハリウッド進出となった『ラストサムライ』で第76回アカデミー賞助演男優賞にノミネート。以降、『バットマン ビギンズ』『SAYURI』『硫黄島からの手紙』など海外映画に多数出演。15年にはミュージカル『王様と私』でトニー賞・ミュージカル部門主演男優賞にノミネートされた。

俳優というフィールドで果敢に世界へ挑み続けている人と言えば、真っ先に名前が挙がるのはやはりこの人、渡辺謙さんだ。

“極限状態”を体に馴染ませるため、孤独であることを求めた

国境を超え、未踏のルートを切り開くパイオニアが、最新作『追憶の森』で演じるのは、謎の男・ナカムラタクミ。死に場所を求め、青木ヶ原を訪ねた主人公・アーサー(マシュー・マコノヒー)が、樹海をさまようタクミと出会ったところから物語は動き出す。

(C)2015 Grand Experiment, LLC.
(C)2015 Grand Experiment, LLC.

死の淵を漂泊するタクミの形相は、廃人そのもの。この極限状態を自らの肉体に馴染ませるため、渡辺さんは撮影期間中、あることを試みたと言う。

「撮影のためボストンへと出発するその日に、たまたま妻とケンカをしたんですね。『行ってきます』も言わずに家を出て成田へ向かい、それから敢えて撮影中は一度も電話はしなかった。妻の声を聞くことで、現実の世界に引き戻されてしまわないようにしたかったんです。この時の僕の仕事は、圧倒的な孤独の中で絶望するタクミを演じきること。だから、撮影期間中はなるべく一人で部屋に閉じこもって静かに過ごし、自分自身も孤独でいることを自然と選んでいました。タクミという人物を分かりやすく表現するには、それが一番いいと感じたんです」

男らしい精悍な眼差しを柔らかく細め、渡辺さんはそう本作の撮影期間を振り返った。

本領を発揮できる環境は、自分でつくっていく

また、海外作品への出演も豊富とは言え、国内の現場とはやはり勝手が違うもの。監督はもちろん、スタッフにも日本人がいることは稀だ。価値観も文化も異なるアウェーの現場では、「負荷を感じずにはいられない」という。

だが、プレッシャーに負けず、最良のパフォーマンスを発揮するために、渡辺さんが実践しているのは“ホームをつくってしまうこと”だそう。

渡辺謙

「慣れない場所やプレッシャーの大きい環境で仕事に取り組む前には、必ず“巣づくり”から始めるようにしています。つまり、心地良くいられるホームに近い環境を少しずつ整えていくこと」

大喝采を浴びたブロードウェイミュージカル『王様と私』の公演期間中も、渡辺さんは疲れた体を引きずりながら毎日キッチンに立ち、米を研ぎ、稽古場にも手製のおにぎりを持って行った。言うまでもなく、渡辺さんほどのキャリアの俳優であれば、身のまわりの世話をアウトソーシングする方法はいくらでもある。だが、敢えてそうはしない。

「アウェーの環境にいれば、必ずいろんなストレスが自分にのし掛かるわけです。でも、少しでも負荷を減らして、100%に近い力を出せるようにするためには、食事などの生活環境含めて、いかに自分がリラックスできる時間を確保できるかが大事。そういう環境を整えられるかどうかで、仕事の質も変わってきますよ」

壁にぶつかったら、一度立ち止まってみるのもいい

渡辺さん演じるタクミは、大きな絶望を抱えて、樹海へ迷い込んできた。キャリアを重ねていけば、絶望と呼ぶほどではないにせよ、さまざまな挫折や逆境が待ち構えている。渡辺さんもまた、「いくつもの壁を乗り越え、ここまでやってきた」と語る。

「僕にも、俳優として先が見えなくなって、不安に押しつぶされそうな時期がありました。でも、どんなに状況が悪かろうと、そういう時ってあがき続けるしかないんですよね。その時の自分にやれることをやるだけ。水面下で足ヒレをバタバタ絶え間なく動かし続けるようにね。そうこうしているうちに、違う潮目にすーっと分け入ることができる瞬間がやって来る」

渡辺謙

その結果が、『独眼竜政宗』や『ラストサムライ』、『硫黄島からの手紙』など数々の名演を生んだ。

一方で、『追憶の森』の撮影を経て、渡辺さんの価値観にも少し変化があったという。

「 “立ち止まることの意味”も考えるようになりました。壁にぶつかったときこそ、一度頭をクリアにして立ち止まり、今吹いている風の音や匂いをちゃんと感じ、次にどこに向うべきなのかを冷静に考えてみるのもいいなって。そういう行為が、自分の人生を変えるきっかけになることもあると思う」

過去の成功はすぐに捨てる。そうすれば仕事も人生も、もっと面白くなる

渡辺さんは俳優という仕事について、「これ以上、楽しい趣味もなければ、達成感を感じるものもない。だから今まで続けてきた」と語る。

一方で、俳優業は世の中のニーズがなければ仕事として成立しない。市場から求められる人材でなければならないということは、俳優でも会社員でも仕事をする人であれば皆同じだ。

「僕が心掛けているのは、いろんなものに対して感動できる心とか、素敵だなと思える感覚を持ち続けること。単純に、そういう人と一緒に働きたいなって思いませんか? それに、そういう感覚を無くした人の仕事には、説得力が無いと思うんですよね」

だが、キャリアを重ねて経験を積めば積むほど、フレッシュであり続けることは容易ではなくなる。

「キャリアなんてものを意識してちゃダメ。僕は、1つ何かやり遂げたら、すぐにそれを投げ打って次の場所へ進むようにしています。そうすれば、常にクリアな頭でいられる。新鮮な気持ちで、目の前にある仕事に面白がって取り組んでいると、何か見えない手のようなものに引かれて、思ってもみなかったようなところに行けたりするものなんです。それに、キャリアなんてものは後からついてくるもの。“理想のキャリア”に縛られて、これからの生き方そのものが窮屈になってしまったら、本末転倒でしょ?」

そう言って、渡辺さんは楽しそうに笑った。

日本を代表する国際的俳優でありながら、まるで飾ったところはない。渡辺さんの回答に周囲のスタッフが感嘆のため息をつくと、「いやいや、そんな大したこと言ってないから(笑)」と照れ臭そうにツッコミを入れる。決して「特別な人」として見られたくない。そこには、市井の人であることの矜持のようなものが感じられる。

気取らず、偉ぶらず、凝り固まらず。銀幕での圧倒的な存在感はもちろん、この屈託のなさこそが、世界中のクリエイターが求める“渡辺謙の仕事”をつくっているのではないだろうか。

傍から見れば、高みにまで登っているように思える渡辺さんだが、今なお努力の人。キャリアにしがみつかない潔さとフレッシュな感覚を武器に、これからも世界の舞台で輝きを増していく――。

渡辺謙
 追憶の森

【映画情報】 『追憶の森』

監督:ガス・ヴァン・サント
キャスト:マシュー・マコノヒー、渡辺謙、ナオミ・ワッツほか
配給:東宝東和
公開:2016年4月29日(金)全国ロードショー
公式サイト:http://tsuiokunomori.jp/

取材・文/横川良明 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)

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